仮想通貨で不正送金の被害にあったら雑損控除

目次

不正送金はなぜ起こる?

仮想通貨は、ここのところ非常に注目されていますが、利用・認知度が高まれば高まるほど、悪いことを考える人達にとってはチャンスとなってきている、といったところでしょうか。

では仮想通貨を保有することは危険なのでしょうか?

確かに、仮想通貨には銀行などのように資産を保証してくれる第三者機関は存在しません。

その代わりとなっているのが、いわゆる「ブロックチェーン」といわれる技術です。

この技術により、例えば1つの取引データを変更しようとしても、連結しているすべてのデータを変更する必要があり、ハッキングはまず不可能とされています。

そのため、仮想通貨を保有すること自体は危険ではありません。

では何が危険なのかというと、仮想通貨保有者のアカウントに不正ログインされてしまうと本人に成りすまして、別のアカウントに送金を行われてしまう点がリスクです。

つまり、仮想通貨保有者のセキュリティ対策の不備や不正侵入等により、アカウントが乗っ取られて不正送金されてしまうのです。

これは、仮想通貨取引所だけでなく、自分で管理できるウォレットで保管していても同じことになります。

ほとんどの仮想通貨の交換業者が推奨していますが、最低限セキュリティ対策として、二段階認証を設定することをお勧めします。

また、アカウント、メールアドレス、パスワードなど、いつもと同じものを使いまわしていると危険度アップです。

 

被害にあったら雑損控除

ここで税金の話。

所得税法上,震災等の災害や盗難,横領などにより,保有する資産に損害を受けた場合等には,一定金額の所得控除を受けられます。

これを雑損控除といいます。

所得税法に明文化されています。

第72条  雑損控除

居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産(第62条第1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第70条第3項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)において、その年における当該損失の金額(当該支出をした金額を含むものとし、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。以下この項において「損失の金額」という。)の合計額が次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる金額を超えるときは、その超える部分の金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。

(施行令205・206①)〔通達72-1~〕

  • 一 その年における損失の金額に含まれる災害関連支出の金額(損失の金額のうち災害に直接関連して支出をした金額として政令で定める金額をいう。以下この項において同じ。)が5万円以下である場合(その年における災害関連支出の金額がない場合を含む。) その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の10分の1に相当する金額(施行令206②)
  • 二 その年における損失の金額に含まれる災害関連支出の金額が5万円を超える場合 その年における損失の金額の合計額から災害関連支出の金額のうち5万円を超える部分の金額を控除した金額と前号に掲げる金額とのいずれか低い金額
  • 三 その年における損失の金額がすべて災害関連支出の金額である場合 5万円と第1号に掲げる金額とのいずれか低い金額

2 前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める。(施行令206③)

3 第1項の規定による控除は、雑損控除という。

 

この雑損控除は,災害,盗難若しくは横領という,本人の意思に基づかない事由により損失が生じた場合に適用が限られているものです。

そして、『損害の原因が災害,盗難,横領などに該当するのか』『損害を受けた資産が「生活に通常必要でない資産」等に当たらないのか』という論点が雑損控除の適否の争点となります。

 

例えば、『損害の原因が災害,盗難,横領などに該当するのか』で言うと、いわゆる振り込め詐欺なんかは、詐欺や脅迫があったとはいえ,最終的には本人の意思で振込をしたことで損失が生じたことになるため,盗難・横領とは言えずに雑損控除の対象にならないとされています(国税不服審判所 平成23年5月23日公表裁決)。

また、『損害を受けた資産が「生活に通常必要でない資産」等に当たらないのか』で言うと、例えば損害を受けた資産が30万円超の貴金属や事業用資産、別荘などは、雑損控除の対象にならないとされています。

では、仮想通貨の不正送金はどうでしょうか?

不正送金という点でみれば、盗難に当たると考えられます。
そして、仮想通貨は、法定通貨等ではありませんが、代金の支払手段や、法定通貨と相互交換できるものとして法的に位置付けされていることから、生活に通常必要でない資産には当たらないと考えられます。

そのため、仮想通貨による不正送金による損害も、雑損控除の対象になるものと思われます。

なお、損害金額については,仮想通貨を不正送金された際の日本円レートで換算して計算することになります。

また、大手業者の中には二段階認証をしていたにも関わらず盗難にあった場合に限っていくらか補償をしてくれるところもあります。不正送金に係る損失が補填された場合には,その金額は損害金額から差し引く必要がありますのでご留意ください。

(加筆修正)
2018年4月16日に、「仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合」の取扱いが国税庁より公表されてました(タックスアンサーNo.1525)。

これによると仮想通貨の不正送信被害で支払われる補償金の性質によって課税の要否が決まるようです。

例えば返還できなくなった仮想通貨に代えて支払われる金銭(損害賠償金)については、その補償金と同額で仮想通貨を売却したとして雑所得となるようです。

まとめ

不正送金の被害は今後も増加傾向になることが予想されます。

万が一にも、被害にあった場合には、雑損控除なんてものが使えます、という紹介ですが、仮想通貨は、基本的に自己管理・自己責任が原則とされている通貨です。

しっかりと対策をとりましょう。

 

ちなみに、直近(11月10日時点)で金融庁が認定している仮想通貨交換業者11社が取り扱う仮想通貨は、資金決済法上の定義に該当する仮想通貨となります。以下の17銘柄ですのでご参考まで。

・ビットコイン
・ビットコインキャッシュ
・イーサリアム
・イーサリアムクラッシック
・ライトコイン
・リップル
・モナコイン
・フィスココイン
・ネクスコイン
・カイカコイン
・カウンターパーティー
・ザイフ
・ビットクリスタル
・ストレージコインエックス
・ペペキャッシュ
・ゼン
・ゼム(ネム)

 

目次