源泉徴収の基礎知識

会社員の方や個人事業をされている方であれば、どなたでも一度は目にしたことがあると思いますが、その一方で、内容が曖昧になっている方や、実際の手続や注意点などをもっと知りたい、と困っている方は多いのではないでしょうか?

特に、納期の特例を提出している方は、時期的にも半年に一度の納期が迫っていますので、ここで源泉徴収の制度の全体像を紹介しながら、特に日々の手続内容や注意点、よくある間違いをご紹介したいと思います。

目次

源泉徴収制度の概要

 

源泉徴収とは?

源泉徴収とは、会社や個人事業主の方が従業員に給与を支払う場合や、税理士などに報酬を支払う場合に、その支払金額に応じた所得税及び復興特別所得税を、その支払の都度差し引いて、その差し引いた所得税及び復興特別所得税を、支払者が受取者に代わって定期的に国に納付を行う制度のことをいいます。

通常、所得税は申告納税方式と呼ばれる、個人が自分の儲けを集計、記録し、税額を計算して納税する方法が採用されていますが、源泉徴収は原則、支払側が税金を徴収して納付する制度となっています。

 

源泉徴収の義務者とは?

源泉徴収制度により、受取側に代わって、徴収した税金を納付する義務のある支払者のことを源泉徴収義務者といいます。

では、どのような方が義務者となるのでしょうか?

それは、源泉徴収の対象とされている所得というものがあらかじめ決まっており、その所得の支払者は原則として義務者となります。そのため、それが会社や協同組合である場合はもちろん、学校、公官庁であっても、また個人や人格のない社団・財団であっても、すべて源泉徴収義務者となります。

但し、例外もあります。

それは、常時2人以下の家事使用人にのみに対して給与等の支払いをする個人が支払う給与等や退職手当等、税理士報酬などの報酬・料金等については、源泉徴収をする必要がありません。

 

 

給与支払事務所等の届出

新たに給与等の支払をすることになった方(法人や個人)は、その事実が生じた日から1ヶ月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を、その給与支払事務所等の所在地の管轄税務署長に提出することになっています。

 

(個人事業主の場合)

ご自身以外に従業員がいない場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要はありません。

これは、個人事業主の場合には、個人事業と事業主本人は同一人格であることから、儲け=自分の所得となるため、そもそも自分に給与を払うといった発想が無いためです。
なお、「個人事業の開業届」を提出する際に「給与等の支払いの状況」欄に給与の支払いをしている旨の記載をした場合には、上記「給与支払事務所等の開設届出書」を提出しなくてもよいことになっています。

 

(法人の場合)

いわゆる一人会社で、ご自身以外に従業員がいない場合であっても、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。

これは、法人の場合には、会社と本人(社長)は別人格であることから、儲け=自分の所得とならないため、あくまで会社から本人(社長)に給与を払うという発想になるためです。
なお、設立後間もない間は無給とした場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要はありませんが、通常だと将来的には支払うことになるでしょうから、会社設立時に提出すべきです。

 

誤解しやすいポイント

◆家事使用人と事業専従者は同じ?

源泉徴収をする必要がない場合における「家事使用人」とは、平たく言えば「お手伝いさん」のようなもので「家事」を行う人ですので、「事業」を行っている事業専従者とは明確に区別されます。

◆個人に対しての支払はすべて源泉徴収の対象?

源泉徴収が必要となるのは、税法で定められた取引に限定されます。そのため、個人と取引する場合であっても、該当する取引でなければ源泉徴収する必要はありません。

◆事務所移転した時は?

納税地の原則的な考え方は、支払時点の所在地の所轄税務署に納付、となりますが、事務所移転があった場合には、例外的に、移転前の支払に対する源泉税等の納税地は、移転の届出書に記載すべき移転後の事務所等の所在地とされています。

源泉徴収の対象となる所得の範囲

源泉所得税の対象となる所得の範囲は、その所得の支払を受ける者の区分に応じて、下記のとおりとなっています。

 

キャプチャ源泉_居住者

キャプチャ源泉_内国法人

キャプチャ源泉_非居住者等

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

源泉徴収をする時期

源泉徴収をする時期は、現実に源泉徴収の対象となる所得を支払う時になります。したがって、これら所得を支払うことが確定していても、現実に支払われなければ原則として、源泉徴収する必要はありません。

 

源泉徴収金額の計算方法

源泉徴収金額の計算は、その対象とされている所得の種類ごとに計算方法が変わりますが、ここでは代表的な事例として、給与、賞与と税理士等報酬に関する源泉徴収税額の計算方法をみてみます。

 

給与

給与の源泉徴収税額は、給与の支給金額から社会保険料等の控除を行い、その金額を扶養親族等の数を考慮して、「給与所得の源泉徴収税額表」に当てはめると算出できます。

(設例)

(1)給与等の支給額(月額)      350,000円
(2)給与等から控除する社会保険料等 45,000円
(3)扶養親族等の数(控除対象配偶者1名、控除対象扶養親族1名) 計2名

キャプチャ源泉_給与

 

賞与

前月中の給与(社会保険料等控除後)金額を、扶養親族等の数を考慮して、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて「賞与金額に乗ずべき率」を算出し、賞与金額に乗じることで算出できます。

 

(設例)

(1)賞与の支給額      600,000円
(2)賞与から控除する社会保険料等 100,000円
(3)前月中の給与(社会保険料控除後) 300,000円
(4)扶養親族等の数(控除対象配偶者1名、控除対象扶養親族1名) 計2名

キャプチャ源泉_賞与

賞与金額600,000円から社会保険料100,000円を控除した残額500,000円に、4.084%を乗じた20,420円となります。

税理士等への報酬

100万円を基準に、計算方法(率)が異なります。

100万円以下・・・支払金額×10.21%

100万円超 ・・・(支払金額-100万円)×20.42%+102,100円

 

(設例)

(1)50万円の場合・・・500,000円×10.21%=51,050円
(2)200万円の場合・・・(200万円―100万円)×20.42%+102,100円=306,300円

 

源泉徴収の納付

 

納付期限

原則として、その源泉徴収の対象となった所得を支払った月の翌月10日までに納付しなければならないことになっています。

なお、納付期限の日が土日・祝日に当たる場合には、その休日明けの日が納付期限となります。

例えば2016年7月の場合、10日は日曜日になりますので、その翌日である11日(月)が納付期限となります。

 

納期の特例

給与等の支給人員が常時10名未満である源泉徴収義務者については、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出し、その承認を受けることにより、給与等や対象手当等、税理士等の報酬・料金について源泉した分を、年2回にまとめて納付することができます。

1月から6月までの間に源泉徴収した所得税等・・・7月10日

7月から12月までの間に源泉徴収した所得税等・・・翌年1月20日

半期に一度で良い、という点と、1月分は10日ではなく20日となっている点が特例になっています。

 

納付手続

源泉徴収した所得税等の納付方法としては、次の方法があります。

 

  1. 所得税徴収高計算書(納付書)を添えて金融機関や所轄税務署窓口にて納付
  2. e-TAXを利用して申請・納付

 

おすすめは2.e-TAXです。源泉所得税の納付だけであれば、電子証明書は必要ありませんので、一度慣れると便利です。ちなみに、弊事務所では、源泉税については、e-TAXによる申告をして、ネットバンキング等による納付のみお客様自身に行って頂いております。

 

誤解しやすいポイント

◆納期の特例を提出すればすべて半期ごとの納付になるの?

納期の特例の対象は、①給与等及び退職手当等について源泉徴収した分、②税理士等に係る報酬・料金について源泉徴収した分に限られます。

そのため、例えば外注先に委託したデザイン料に係る源泉徴収分などは、この特例の対象外となりますので、原則通り支払月の翌月10日までに納付する必要があります。なお、納付期限までに納付されない場合には、原則として延滞税や不納付加算税などを負担しなければならないことになりますのでご注意下さい。

 

◆納期の特例を出せばその月から特例になるの?

納期の特例に係る申請書を提出した日の属する月の翌月末日までに税務署長から承認または却下の通知がない場合には、その申請月の翌月末日において承認があったものとされ、申請月の翌々月の納付分から特例の適用となります。

例えば、3月に申請書を提出して、4月末までに通知がなければ5月納付分(4月支払分)から特例の対象になります。この場合、4月納付分(3月支払分)は特例の対象とはなりませんのでご注意下さい。

 

源泉徴収票及び支払調書の提出

給与等や報酬・料金などの支払者は、毎月の源泉徴収実務に加え、翌年1月にその支払の明細を記載した「源泉徴収票」と「支払調書」、及びそれらの情報を合計した「法定調書合計表」を作成して1年間の源泉徴収実務が終わります。
「源泉徴収票」は年末調整を終えた1年間の給与に関する源泉徴収の情報をまとめたもので、2部作成し、そのうち1部と法定調書合計表と一緒に、翌年1月31日までに税務署に提出し、残りの1部を受給者に交付しなければなりません。

 

「支払調書」は報酬等に関わる源泉徴収の情報をまとめたもので、同一の相手に支払った金額の合計が年5万円を超える場合に作成する必要が生じます。調書は1部だけ作成して税務署へ提出すれば大丈夫なのですが、一般的には2部作成して残りの一部を源泉徴収を行った支払先に対して発行します。

なお、支払先に対しては、法律上は発行義務が無い(必ずもらえるとは限らない)ことから、会計処理する際には、源泉徴収された入金を把握できるように登録しておくことが望ましいです。
この辺りについては、年末調整前に改めて記事を書きたいと思います。

まとめ

源泉徴収義務者や、対象となる所得、納税期限など、源泉徴収の仕組みをきちんと正しく理解することで、源泉徴収の全体像をつかむことができます。

毎月の方も、半年に一度の方も、謝りやすいポイントを踏まえて確認してみてください。

目次