法定実効税率とは?
課税所得に対する法人税、住民税、事業税の表面税率に基づく所定の算定式による総合的な税率のことをいいます。
税効果会計における繰延税金資産、繰延税金負債は、一時差異に法定実効税率を乗じて算定することになります。
法定実効税率の計算方法
以下の算式により計算します(連結納税制度を採用する場合を除く)。
税率はどれを使えばよいか?
法定実効税率を算定する上で、各税率についてどのタイミングの税率を適用すべきか、という論点があります。
現行制度上は、決算日までに公布されている税率を使うことになっていますが(公布日基準)、実務上、批判的な意見も多く、課題がありました。
それを踏まえて、企業会計基準委員会(ASBJ)より、平成27年12月10日に企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」が公表され、早急に対応が図られました。
「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」の概要
外部リンク(ASBJ):「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」
税効果会計については、税効果に関する実務指針が審議されており、先行して「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」が公開草案として公表されているところではありますが、これとは別に、税率の取扱いについても実務上の課題があったことから、他に先行して開発され、この度公開草案としてリリースされました。
ポイントは、①成立日基準、②住民税等に関する税率の取扱いです。
成立日基準
本公開草案では、法人税、地方法人税および地方法人特別税について、繰延税金資産等の計算に用いる税率は、「決算日において国会で成立している税法に規定されている税率」によることが示され、従来の「公布日基準」から「成立日基準」へと、その取扱いが変更されています。
(ケース1)決算日前に税制改正が国会で成立&公布
この場合は、決算日時点の最新の税率を適用すればよいので、従来から問題ありませんでした。
(ケース2)決算日前に税制改正が国会で成立&決算日後に公布
この場合、従前までは「公布日基準」であったため、国会で成立していたとしても、成立前の税率を適用する必要がありました。
しかし、税制改正の公布が3月末間際までなされないことが多かったことで、特に3月決算会社の事務対応に混乱が生じていました。
また、たとえ1日違い(4月1日公布)だとしても公布日基準を採用するのであれば、改正直前の税率により繰延税金資産(負債)を計算するのが正しい方法となりますが、そもそも、税効果は、将来の見積項目であって、将来の税率が分かっているのに、あえて古い税率を使うのでは、有用な情報とは言えない、といった意見が多かったことから、成立日基準が採用されることになっています。
国会成立した税率と公布された税率が相違することが無かったことから、直感的にもすっきりしていて分かりやすいですし、運用としても実務的には安定するのではないかと個人的には思います。
住民税(法人税割)及び事業税(所得割)に関する税率の取扱い
住民税等は、国会で成立した改正地方税法等を受けて、各地方公共団体が規定する条例が改正されるというプロセスを経ることで税率が変更されます。
そのため、法人税等とは異なり、国会成立の他に、各地方公共団体の「条例成立」という要件が必要となります。
ここで、この改正地方税法等を受けた改正条例の成立時期により、実務の安定を図るための取扱いが定められています。
(ケース3)決算日前に税制改正が国会で成立&地方公共団体の改正条例が成立している場合
この場合は、決算日時点で成立している条例に規定された税率を適用すればよいので、従来から問題ありませんでした。
(ケース4)決算日前に税制改正が国会で成立&決算日後に地方公共団体の改正条例が成立している場合
この場合が一番の論点になります。
この場合、標準税率の場合と、超過課税による税率の場合に分けて検討することになります。
(1)標準税率の場合
改正地方税法等に規定されている標準税率を適用します。
(2)超過課税による税率の場合
改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率を適用します。
この差分を考慮する税率の算定方法としては、原則としていずれかの方法によります。
①改正後標準税率に、改正前条例における「差分」を加算する方法
改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を越える数値を加えて算定します。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とします。
②改正後標準税率に改正前条例における「差分」を考慮した割合を乗じる方法
改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率における改正直前の地方税法等の標準税率に対する割合を乗じて算定します。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とします。
(ケース5)決算日後に税制改正が国会で成立&地方公共団体の改正条例が成立している場合
この場合は、現行の取扱いを踏襲し、「その内容及び影響を注記する」ことになっています。
修正後発事象として決算日後に成立した税率で計算した情報の方が有用である、といった意見がある一方で、例えば2月決算の場合には実務を安定的に行えない点や、既存の会計基準では見積計算に用いる情報は期末日現在のものが用いられている実務(上場株式の減損時の株価や、減損会計の使用価値算定に使う割引率等)であったり、国際的(IFRS)にも、決算日後の税率変更は、その決算日には反映しないことを前提としているためです。
通常、3月末日に国会成立していることを踏まえると、12月決算会社はこの注記自体が不要な会社が多そうです。
しかし、1月決算会社だと、既に短信は発表していて、計算書類等の校了終了時期でしょうから、・・・実務的には相当微妙ですね。
「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」の適用時期
平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から適用することが提案されています。
この提案通りになれば、平成28年3月期決算からになりますので、平成27年12月期~平成28年2月期の決算会社は翌年からの適用になります。
平成28年度税制改正を踏まえた法定実効税率の試算
(※2016年4月4日 加筆分)
平成28年度税制改正法案が3月29日に参議院にて可決、「成立」し、3月31日に公布されました。
また平成28年度の改正地方税法が3月29日に「成立」し、3月31日に公布されました。
これを受けて、記事を更新しましたので、こちらを参照してください。
ケース4の場合の法定実効税率の試算
上記適用指針の公開草案が案通りに適用されると、平成28年年3月期決算に使う法定実効税率を新たに算定する必要があります。
平成28年度税制改正大綱では、「平成29年4月1日以降に開始する事業年度から地方法人特別税は廃止し、法人事業税に復元する」と記載がありますが、復元により法人事業税の税率がどれくらい増税になるかは定かではありません。
その他不確定要素も多いことから、暫定情報ではありますが、改正地方税法等が決算日以前に成立し、改正条例が決算日後に成立した場合の外形標準課税適用法人(軽減税率不適用法人)のケースについて検討してみたいと思います。
なお、実際に適用される税率については、所在地の都道府県や会社規模、所得状況等によって異なる場合がありますのでご留意ください。
(標準税率の場合)
平成28年度税制改正大綱でいうところの「法人実効税率」と同じです。
(超過税率(東京都)の場合)
①改正後標準税率に、改正前条例における「差分」を加算する方法
標準税率と超過税率の差額は税制改正前後で同じと仮定した方法です。
②改正後標準税率に改正前条例における「差分」を考慮した割合を乗じる方法
標準税率と超過税率の比率が税制改正前後で同じと仮定した上で、地方法人特別税が含まれていない事業税の税率に基づいて割合を算定する方法です。
②’‘改正後標準税率に改正前条例における「差分」を考慮した割合を乗じる方法
標準税率と超過税率の比率が税制改正前後で同じと仮定した上で、地方法人特別税が含まれる事業税の税率に基づいて割合を算定する方法です。
東京都の場合は、過年度から継続的に地方法人特別税の税率を考慮して超過課税による税率を決定していることから、以下の方法による算定も考えられます。
まとめ
法定実効税率は、税制の改正に応じて変動することから、定期的な情報収集が必要になります。
年度ごとに適用税率が異なるのは面倒ですが、新たな情報が入り次第、また更新していきたいと思います。
それにしても、繰越欠損金の見直しもなされていますし、回収可能性の判断であったりその他会計処理に関する適用指針もリリースが予定されていることから、平成28年3月期の税効果はちょっとしたTopicになりそうです。